強みをつなぐ事業承継⑥

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事業承継には、3つのパターンがあります。それは、親族内承継、社内承継、外部承継(M&A)の3つです。このことについては、強みをつなぐ事業承継③でご説明しています。また、親族内承継で留意すべき点については、強みをつなぐ事業承継④で、社内承継については、強みをつなぐ事業承継⑤でご説明しました。今回は、外部承継(M&A)における留意点について、ご説明します。

M&Aの目的は時間を買うことです

M&Aは非常に有効な経営手法です。新たな分野に進出する場合、自社で取り組むと時間がかかります。また、企業文化との整合性の問題もあり、新事業がうまく行かないケースも多いのが実態でしょう。わたしが担当している補助金制度で、新規事業の立ち上げに取り組んだ会社の成功確率をみてみると、次の図のような結果となっています。したがって、新規事業を立ち上げるのに、すでにその分野で実績を出している会社を買収することは、とても合理的な判断だといえます。

小さな会社の新たな取り組みの成功確率

M&Aが有効なのは、新規事業開発だけではありません。新しい市場を開拓する場合にも有効です。あるエリアで実績のある会社を買うことで、その会社の市場を手に入れることができます。自社がそのエリアに進出して、そのエリアですでに実績のある会社と競争するよりも、その会社を買収した方がスピーディーな事業展開を図れます。

また、新しい事業を立ち上げたり、市場を拡大する目的以外でも、ある会社を買収することで、既存事業と何らかの相乗効果が見込める場合にも、M&Aは有効な手段です。このようにさまざまな場面で活用されるM&Aですが、その一番のメリットは時間を買うことです。

M&Aの事例

M&Aを積極的に経営に取り入れる会社が、中小企業でも多くなっています。わたしの周辺でも、会社や事業を買収したり、会社を売却したりする社長様が何人もいらっしゃいます。その内のひとつのケースをご紹介します。

ケース4 食品メーカーを売却したケース

わたしが長年にわたり親しくさせていただいている創業社長のケースです。食品メーカーとして自社ブランド商品を数多く展開されている会社です。お子様は大手企業等で活躍されており、会社を引き継がせたり引き継いだりするお考えは、親子共々になかったようです。かなり以前から、自社の売却をお考えで、銀行などにも相談されていたようですが、なかなか買い手が見つかりませんでした。

それが、数年前に「買いたい」という会社が見つかり、二ヶ月ほどで売却できたのです。売却後は、契約により一年ほど相談役としてサポートされていましたが、その期間も終了し、心機一転、別会社の社長として新たな事業に取り組まれています。

買ったのは中堅の卸売業者です。食品関連事業を立ち上げるために、この食品メーカーを買収されたようです。絵に描いたようなハッピーリタイアで、中小企業経営者の出口戦略の成功例です。

M&Aを外部承継という場合も

親族内承継がかなわない状況の時に、その次に検討すべきなのがM&Aです。中小企業でもM&Aが一般化してきていると書きましたが、「会社を売る」ということに対しては、やはりまだ抵抗感をお持ちの社長様も多いようです。そこで事業承継の相談シーンでは、M&Aのことを外部承継と呼ぶことがありますが、ここではM&Aで統一しておきます。

M&Aをお考えの場合の留意点

もし親族内承継の可能性が低いという場合、M&Aをご検討ください。相談されるのは早いほうが望ましいです。なぜなら、株価対策の方向性が、親族内承継とは真逆になるからです。親族内承継では株価はできるだけ低くなるようにします。一方、M&Aではできるだけ高く買ってもらえるように対策を講じる必要があります。いずれにせよ、ある程度の時間をかけた対策が必要です。「ご相談はお早い目に」です。

問題は、誰に相談するかです。「会社を売る」という話は、最高機密事項です。社内に決して知られてはいけないことです。社内の誰かに相談したら、必ず社内に広まり、さらには得意先や取引先にも伝わってしまいます。こうなると企業の価値を毀損しかねません。ですから、必ず社外の信用のおける専門家に相談すべきです。

顧問税理士の先生も候補かも知れませんが、M&Aの経験がないのであれば、M&Aの経験豊富な専門家に相談する方がよいでしょう。それなら、M&Aを専門に扱う会社に相談したら良いのでしょうか? それはちょっとお待ちになった方がよいかも知れません。社長様がM&Aをお考えだとしても、そのタイミングは「今」ではないかも知れません。しかし、M&A会社に相談すると、「M&Aありき」が前提となり、タイミングを無視した話が進む可能性があるからです。

事業承継全体を俯瞰できる専門家に相談しましょう

企業価値算出や株価対策、相続対策などは、弁護士や公認会計士、税理士の専門家にお任せするとしても、事業を引き継ぐという観点からは、中小企業診断士が相談相手として適任です。当社では、中小企業診断士があなたの事業承継全体を俯瞰しながら、もっとも望ましい承継のあり方について相談対応しております。また、M&Aに通じた弁護士・公認会計士・税理士などの専門家とネットワークを組んでいますので、ワンストップで対応できます。

M&Aに関わらず、事業承継に関するお悩みがございましたら、初回相談は無料ですので、お気軽にご相談ください。

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