電子書籍は友人に貸せません

電子書籍は紙の本のような実態がありません。これによりどのようなことが起こるのでしょうか?

紙書籍だとかばんに入れて、持ち運べます。いつでも取り出して読むことができます。付箋を貼ったり、マーカーで印をつけたり、書き込みしたり、必要なページだけコピーしたりが自由にできます。「この本、とっても面白かったから、貸してあげる」と友人に本を貸すこともできます。

電子書籍でも、スマートフォンやタブレットにダウンロードしたデータを入れておけば、それらのデバイスと一緒に持ち運べますし、デバイスが利用できるところであれば、どこででも読むことができます。また電子書籍を読むためのソフト上で、付箋を付けたりマーカーで色をつけたりもできます。あくまで「電子データ上」でという意味でですが。紙の本でできることは、バーチャル的にではありますが、電子書籍でもだいたい可能なのではないでしょうか。

電子書籍派の方は、さらに次のようなメリットをおっしゃいます。端末に電子書籍をダウンロードしても、電子書籍は電子データですから、書籍そのものの重さはありません。仮に何百冊とダウンロードしたとしても、端末と一緒に持ち運ぶことができます。一方、紙の書籍を何百冊と持ち運ぶことは物理的に不可能ですから、電子書籍の方が持ち運びには優れています。これは確かにそうですね。

経営者必読! 事業承継の全体像を一気読み: 多様な専門家がポイントを網羅的に解説!でもあなたがAmazonで紙の本を買うのと電子書籍を買うのとでは、決定的に大きな違いがあります。それはなんでしょうか?

あなたが「事業承継の全体像を一気読み」を500円で購入されたとしましょう。これが紙の本であれば、数日後にあなたの手元に本が送られてきます。電子書籍の場合は、ネットにつながっていれば、あなたの端末にすぐにデータがダウンロードされ、一分後には本を読むことができます。この違いでしょうか?

いえいえ、もっと根本的なことが違います。それは、あなたが支払った500円で買ったのは、書籍そのものではなく書籍の利用ライセンスなのです。あなたは電子書籍を買ったとしても、その所有権を持っているわけではないので、「貸す」ということができません。あなたがKindleストアで500円で購入された「事業承継の全体像を一気読み」のデータを友人のKindleアプリに転送したりすることができないのです。

もちろん、自分と関係づけられた端末であれば、(ライセンスを)購入した電子書籍は、端末を同期させれば、PCでもスマートフォンでもタブレットで、同じように読むことができます。同期すればPCで読みかけていた箇所からスマートフォンで読む継ぐこともできます。

でも紙の本のように手軽に貸すということはできません。これは、無制限な利用を防ぐためにデジタル著作権管理(Digital Rights Management、DRM)により電子書籍がガードされているためです。あなたがお友達に「事業承継の全体像を一気読み」を読んでもらおうとすれば、あなたの端末を友人に貸すしかありません。

逆にいえば、電子書籍は著作権がしっかりガードされているということです。でもなんだか不便そう。やっぱり紙の本がいい。そういう方も多いのかも知れません。電子書籍がまだまだ普及したとは言いがたい状況は、こうした根本的な部分の違いにもあるかも知れません。

でも電子書籍が紙の本に比べて相当程度安ければ、「貸す」という必要性が小さくなります。しかし現状は、商業出版されている本は、電子書籍でも紙の本とあまり値段の違いがありません。「今すぐ読みたい」とか「たくさんの本を持ち歩きたい」とかの欲求がなければ、あえて電子書籍を購入するメリットがあまりない。価格面も電子書籍普及のネックですね。

今すぐ読めるという電子書籍のメリットに着目するか、電子書籍のいくつかのデメリットに着目するか。ビジネス電子出版に関心があるあなたには、ぜひメリット面に目を向けていただきたいと思います。

2015年11月23日追記

「電子書籍は友人に貸せません」というタイトルが間違いとなりかねない事実に気づきました。次の著作の準備なのですが、出版申請しているときに、「デジタル著作権管理を適用する」かどうかのオプションがあります。通常、「適用する」としますが、この項目の説明にこう書いてありました。

DRM(デジタル著作権管理)とは、本のKindleファイルを無許可で配布できないようにするためのものです。読者が自分の作品を他の読者と共有することを奨励し、本にDRMを適用しない著者もいます。DRMを選択した場合でも、読者は本を別のユーザーに短期間貸し出したり、Kindleストアから別のユーザーへのギフトとして購入することができます。(出所:Kindle ダイレクト パブリッシング)

えっ?「読者は本を別のユーザーに短期間貸し出したり」と書いてあります。「わっ!この記事、タイトルからして間違っている?」調べてみると、

本の貸し出し
Kindle 本のレンタルを使用すると、ユーザーは Kindle ストア経由で購入したデジタル本を友人や家族に貸し出すことができます。本は 1 回につき 14 日間レンタルでき、貸し出し中は、貸し手がその本を読むことはできません。レンタルできるのは Amazon.com で購入した Kindle 本のみです。(出所:Kindle ダイレクト パブリッシング)

ということのようです。ただし、貸し出しができるのは、現時点ではAmazon.com で購入した Kindle 本のみです。ということで、「Amazon.com 以外で購入したKindle本は、友人に貸せません」がより正確なタイトルですね。

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