事業性評価とは
事業性評価とは、金融機関が中小企業に対する融資の可否を検討する際に、財務データや担保・保証のみを評価するのではなく、事業の内容や成長可能性などを適切に評価することをいいます。これは、2014年6月に閣議決定された「日本再興戦略」に盛り込まれた「地域金融機関等による事業性を評価する融資の促進等」という施策を受け、金融庁が金融機関検査で打ち出している方針でもあります。
このため、地銀や信金などの地域金融機関は、中小企業に対して、お金を貸すにせよ貸さないにせよ、従来のように過去の財務諸表の定量的な分析だけで判断できず、当該企業の事業そのものに対する定性的な評価も踏まえるように求められています。さらに、事業に対する目利き力とコンサルティング力まで金融庁に求められているようです。「バンカー」たろうとする銀行員の方にとっては、金融マンとしてやりがいがあるのではないでしょうか。
企業側にも対応が求められます
一方、事業性評価の対象となる中小企業側においても、金融機関が事業性評価を国から求められていることを踏まえて、適切に対応しなければ、「担保がある」「連帯保証人がいる」といっても、お金を借りられない状況もあり得るということです。
事業性評価を金融機関が適切に行うためには、銀行員と中小企業経営者との間の情報の非対称性を解消する必要があります。情報の非対称性とは、情報経済学の概念ですが、「性質に関する情報の非対称性」と「行動に関する情報の非対称性」があるといわれています。
性質に関する情報の非対称性とは
経営にたとえれば、「財務諸表が適正かどうか」というような情報の性質に関して、情報を出す側が知っていることと、情報の受ける側が知り得ることの間に、大きなギャップがある状態のことをいいます。粉飾決算を行っていれば、そのことを経営者は知っています。一方、決算書を受け取った銀行員がそのことを知らないとすれば、これが情報の非対称性です。性質に関する情報の非対称性を放置して、事業融資を安易に行うような金融機関がもしあれば、その金融機関には粉飾決算を行っているような質の悪い会社ばかりが融資を申し込むような状況になる場合があります。これをアドバースセレクション(逆選択)といいます。
性質に関する情報の非対称性を解消する方法としては、「シグナリング」や「スクリーニング」などの手法が考えられています。「シグナリング」というのは、経営者が自分が優れた経営を行っていることを公的な評価などで示すことです。たとえば、経営革新計画の承認を得ている、などが該当するでしょう。
「スクリーニング」とは一定の条件を満たす企業には安い金利を、そうでない企業には高い金利を課すことで、企業の側がどちらを選ぶかによって、経営の質についての情報を金融機関側が得るような仕組みを作ることです。
企業側には、金融機関との間に性質に対する情報の非対称性がない、隠し事はしていない、という公明正大な対応が、日頃から求められます。
行動に関する情報の非対称性とは
経営者が日々経営に全力で取り組んでいるか、日々生産性の向上をめざして改善しようと努めているか、これは経営者にはわかるが、経営者を常時モニタリングできない銀行員にはわからない、このようなタイプの情報の非対称性のことです。
融資の条件として経営計画の提出を金融機関が求めたしましょう。経営計画には現状の問題点をどのように解決するか、そしてその対応策を実施することで、今後どの程度経営状況を改善するかが詳細に書いてあります。社長ご自身で作成されたにせよ、顧問税理士の先生やコンサルタントに依頼して作成してもらったにせよ、経営計画に対するヒアリングの際にも、今後の経営の進め方について、社長が銀行員に熱心に説明します。その結果、めでたく審査合格となり、資金が口座に振り込まれました。契約成立です。
問題はこの後に起きます。資金繰りに目途が付いたと安心した社長は今まで通りの放漫経営を続ける。よくありそうなお話です。これがモラルハザードという、行動に関する情報の非対称性に起因する問題です。契約後に発生します。ちなみにアドバースセレクションは、融資を行うかどうかという契約前の問題です。
モラルハザードを防ぐためには、定期的なモニタリングを義務づけるなどの対応策がありますが、半年に一回程度の訪問では、本当のところはわからないのではないでしょうか。逆にいえば、企業の側から定期的に経営状況を銀行員に報告するなどして、日々、真剣に経営に取り組んでいることを伝える努力が必要です。
わたしと何の関係があるの?
一体何の話をしているの? 経営者のわたしと何の関係があるの? いえいえ、実は大ありなのです。あなたの会社にやってくる銀行員、あるいは融資を申し込んだ際に面談する銀行員が、「事業性評価」を求められているということをあなたが的確に認識して対応しないと、お金を銀行から借りることが難しくなりますよ、貸し渋りにあいますよ、ということです。なぜ? それについては、次回以降に順次お話しします。