信用保証制度と責任共有制度

これまでの融資制度

ある社長が設備投資を行うために、近くの信用金庫に融資を申し込み、金利2%で1,000万円を借りたとしましょう。最初の1年間の金利は約20万円です。これが信用金庫の収益となります。社長は約定通り返済を続けましたが、数年後に大口取引先が海外に移転して、受注量が激減、経営に行き詰まりました。信用金庫も状況を鑑みてリスケなどの対応をしてくれましたが、奏功せず、倒産してしまいました。その時点での信用金庫のこの会社に対する融資残高は500万円でした。

この会社から信用金庫が受け取った利息は数十万円ほどでしょう。その一方で、融資残高の500万円が回収不能となり、損失となります。数十万円の利息のために数百万円の損を出す。これでは割りが合いません。ビジネスとして成り立ちません。そこで、会社が破綻しても、貸し金を回収できるように土地や建物などを担保として提供するよう求める。あるいは、経営者の資産から回収できるように経営者保証を求める。ある意味、当然のことかも知れません。ですから、お金を借りる企業側も、担保の提供や経営者保証に応じてきたのでしょう。逆にいえば、担保があれば、保証人となれば、経営状態がある程度悪くても、お金を借りることができたともいえます。これがこれまでの融資制度でした。

高いリスクと低金利

お金を貸す借りる、これはコーポレートファイナンスの世界です。ファイナンスの大原則は「ハイリスク・ハイリターン」です。高齢者の方が詐欺商法で被害を受けた、という報道が繰り返されていますが、その際に決まり文句のように語られるのが「安全安心で高配当」という言葉です。「安全安心」とは「ローリスク」あるいは「無リスク」かも知れません。一方「高配当」は「ハイリターン」つまり「ローリスク・ハイリターン」をうたっているわけです。あり得ない話です。でも、多くの方が欺されます。

中小企業の経営基盤は、大企業に比べると非常に脆弱です。つまり、破綻リスクが高い、ということです。なので、大企業向け融資よりは金利が高いのが普通です。それでも地域金融機関の中小企業向け融資は、十分に低金利なのではないでしょうか。

信用保証制度

企業が銀行に融資を申し込んだ際、銀行から信用保証協会の利用を求められる場合があります。これが「信用保証制度」です。企業は信用保証協会に数%程度の保険料を支払います。これにより、企業が破綻した場合、未返済の貸し金を企業に代わって信用保証協会が銀行に支払ってくれる(代位弁済)という制度です。(もちろん、信用保証協会は企業に対して立て替え払いした分を請求します。チャラになるわけではありません。念のため)信用保証制度によって、信用力が不足しがちな中小企業が比較的低金利で融資を受けられることを目的とする制度です。これにより、中小企業は銀行からお金が借りやすくなっています。

一方、融資した先が破綻しても信用保証協会が代位弁済してくれるのであれば、金融機関はノーリスクとなります。ノーリスクで金利収益だけ得られる。これは美味しい話です。ここにも、前回お話しした情報の非対称性の問題が生じます。

信用保証制度とアドバースセレクション問題

金融機関は融資を申し込みに来た企業の経営の実態はよく分からない。これは性質に関する情報の非対称性です。よく分からないから、そのリスクも判断が難しい。そこで、信用保証制度を利用して、リスク回避を図ります。信用保証協会ももちろん審査を行い、何でもかんでも債務保証を行うわけではありません。しかし、信用力の劣る中小企業への融資を円滑にすることが制度の目的ですから、むげにするわけにもいきません。ここに、アドバースセレクション問題が発生する余地が生じます。

つまり、信用保証制度を利用するのはリスクの高い案件ばかりという状況です。このため、代位弁済が多く発生し、信用保証協会の財務内容が毀損します。制度が立ち行かなくなる可能性が出てきました。

責任共有制度

そこで生まれたのが、「責任共有制度」です。誰と誰が何を共有するのでしょうか? それは、信用保証協会と金融機関とが、中小企業が破綻した際の責任(負担)を共有するというのです。つまり、融資先中小企業が破綻した際、これまでは破綻債権額の100%を信用保証協会が代位弁済していたのに対して、責任共有制度導入後は、代位弁済は80%にとどめ、残り20%は貸し手金融機関の負担とすることになりました。金融機関にとってノーリスクだった保証協会制度の性質が大きく変わったのです。2007年10月のことです。

さらなる制度の変更が予定されています

2007年10月なんて、もう10年ほど昔の話。今のわたしに何の関係があるの? それが大ありなのです。金融機関の負担割合20%が今年2016年4月以降に最大50%まで引き上げられる可能性があるのです。そして、それは前回お話しした事業性評価と関係しているのです。それについては、また改めてお話しします。