モラトリアム法とは、「中小企業金融円滑化法」、実はこれも略称で、正式な法律名は「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(平成二十一年十二月三日法律第九十六号)」です。
2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以降、急激に悪化した景気の影響を受けている中小企業者及び住宅資金借入者の資金繰りを支援するための法律です。このことは、第1条(目的)に明示されています。
(目的)第1条
この法律は、最近の経済金融情勢及び雇用環境の下における我が国の中小企業者及び住宅資金借入者の債務の負担の状況にかんがみ、(中略)、中小企業者及び住宅資金借入者に対する金融の円滑化を図るために必要な臨時の措置を定めることにより、(後略)。
2009年(平成21年)12月3日公布、同12月4日に施行されました。
条文に「臨時の措置を定める」とあるように、約2年間の時限立法として施行されたのですが、経済状況が好転しないことに加え、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災による更なる状況の悪化等から、期限が延長されました。
冒頭に書いた「モラトリアム法」という名称ですが、「中小企業金融円滑化法」が議論されていた頃にはよく使われていましたが、その後は、「円滑化法」という呼び方が一般的です。
「モラトリアム」は、ラテン語の”mora”「遅延」が語源で、本来するべきことを繰り延べしたり、中断したりする状況を表す場合などに使われています。
金融に関して使われる場合には、「支払猶予令」、つまり「預金払い戻しに対して、銀行に一定の猶予期間を与える」制度を意味します。預金者(債権者)に対する銀行(債務者)の支払繰り延べですね。
この意味からすると、「円滑化法」も、銀行(債権者)に対する中小企業者(債務者)の支払繰り延べですから、構造的には同じ。「モラトリアム法」という通称も、頷けます。
過去には、1923年(大正12年)9月1日に起こった関東大震災直後の9月7日に「私法上の金銭債務の支払延期及手形の権利保存行為の期間延長に関する件」が発布されました。「モラトリアム令」です。
さらに、9月23日には、震災前に銀行が割り引いた手形について、日本銀行が再割引に応じ、その決済期限を2年後の1925年(大正14年)9月30日にするという「日本銀行震災手形割引損失補償令」が発布されています。
しかし、2年が経過しても決済が進まず、期限を2度延長(モラトリアム)して、発布から4年後の1927年(昭和2年)9月30日に終了しました。
決済されず日本銀行が損失を被った場合には、政府がそれを最大1億円まで補償することも定められていましたが、結果的に2億円を超える膨大な不良債権が残こり、この処理を巡り国会が紛糾する中、昭和金融恐慌に至っています。
このときには、大蔵大臣高橋是清が、500円以上の預金支払いを3週間猶予するモラトリアム期間を設けることで、金融恐慌を沈静化させています。このモラトリアムは延長されていません。
さて、平成の「モラトリアム法」たる「円滑化法」です。
「円滑化法」は当初2年間の時限立法でしたが、終了期限が延長されました。モラトリアム(遅延)したのです。しかし、2回の延長(モラトリアム)を経て、施行から4年目の今年(2013年)3月31日にいよいよ期限が到来します。
「安易な返済猶予はモラルハザードを引き起こす」と反対の声もありましたが、景気悪化による受注の激減や失業等による収入減で借金の返済に困っていた中小企業者や住宅ローン利用者支援には大きな効果があったようです。
返済猶予は、2012年(平成24年)9月末時点で、340万件、累積額95兆円、最終的には100兆円を超すと言われています。
当初2年で片が付くと考え、その損失額を1億円と見積もったが、2度の期限延長を繰り返し、2億円を超える膨大な不良債権を残した大正時代のモラトリアム法。偶然にも2回のモラトリアム(期限延長)を経て、今年3月に期限が到来する平成のモラトリアム法。
「円滑化法」がどのような結果につながるのかは、もう少し時間が経過しないと分かりませんが、果たして歴史は繰り返すのでしょうか。