国や大阪府等の中小企業支援策により、いろいろな中小企業を訪問し、アドバイスをさせていただいております。「中小企業」とさらっと書きましたが、「中小企業って何?」と考えてみると、意外と難しいです。
中小企業の反対概念が大企業ということであれば、大企業でない企業がすべて中小企業ということになりますが、では「大企業とは何?」となりますね。
株式を上場している会社が大企業でしょうか。でも、そうすると、たとえば、サントリーさんは非上場ですから、大企業ではなく中小企業ということになってしまいます。説得力がありませんね。
そもそも「大中小」というのは相対的なものですので、「中小企業」を定義するのは難しい。
あなたは中小企業診断士ですよね。では、中小企業とは何ですか?
と、真正面から問われると、困ったことになるかも。
そこで、法律の登場です。日本には、中小企業基本法なる法律があり、この法律でバッチリ定義されています。条文を引用してみます。
(中小企業者の範囲及び用語の定義)
第二条 この法律に基づいて講ずる国の施策の対象とする中小企業者は、おおむね次の各号に掲げるものとし、その範囲は、これらの施策が次条の基本理念の実現を図るため効率的に実施されるように施策ごとに定めるものとする。
一 資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であつて、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
二 資本金の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であつて、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの
三 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であつて、サービス業に属する事業を主たる事業として営むもの
四 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であつて、小売業に属する事業を主たる事業として営むもの
資本金(または出資金)や従業員数及び業種によって定義していることがわかります。上記では分かりにくいので、まとめてみると次のようになるでしょうか。
項目 商工会議所 商工会
根拠法 商工会議所法(昭和28年法律第143号) 商工会法(昭和35年法律第89号)
管轄官庁 経済産業省経済産業政策局 経済産業省中小企業庁
設置地区 市の区域(特別区を含む) 主に町村の区域であるが、町村合併により市域の設置も多い。
上部組織 日本商工会議所 全国商工会連合会、都道府県商工会連合会
会員に占める小規模事業者の割合 約8割 9割を超える
事業 地域の総合経済団体として中小企業支援事業の他、原産地証明等国際的業務 中小企業施策、特に小規模事業施策に重点を置いており、事業の中心は経営改善普及事業
組織の意思決定 選挙で選任された議員による議員総会で決定、議員選挙は会費1口当たり1票 全ての会員に参加する権利がある総会で意思決定、1会員1票
設立要件 地区内の特定商工業者の過半数が同意(会員要件なし)、経済的基礎・施設・職員を有すること 地区内の商工業者の2分の1以上が会員となること
設置数 514(平成27年現在) 1,667(平成27年4月現在)
※市にある商工会804
会員数 125万(平成27年3月現在) 100万(平成27年4月現在)
この定義によると、小売業で従業員が300人でも、資本金が5,000万円であれば、中小企業ということなります。このような会社って、けっこう大きい会社ですよね。
→ 中小企業庁:FAQ「中小企業の定義について」
一方、私が支援させていただいている会社は、従業員が十数人、あるいは数人という会社が多いです。こうした会社も、中小企業という範疇で、法律上はくくられています。
実際に支援する立場からすると、従業員50名の会社と、10名の会社では、あらゆる点において違いがあります。しかし、たとえば、助成金を申請するような場合であっても、同じ書類を作成し、同じ土俵で審査されます。その結果、ある程度規模の大きな会社の方がやはり有利なことは否めません。
中小企業向け振興策というものが、助成金をはじめ多種提供されていますが、中小企業といっても、その経営実態には相当の相違があり、中小企業の中でも規模の小さな企業に対する支援策が十分ではない、このことが、地域の雇用創出や地域振興の障害になっているのではないか、ということが、国において議論されています。
そこで出てきた新たな概念が「ちいさな企業」です。
中小企業基本法では、その第8条で
(小規模企業への配慮)
第八条 国は、小規模企業者に対して中小企業に関する施策を講ずるに当たつては、経営資源の確保が特に困難であることが多い小規模企業者の事情を踏まえ、小規模企業の経営の発達及び改善に努めるとともに、金融、税制その他の事項について、小規模企業の経営の状況に応じ、必要な考慮を払うものとする。
という形で、中小企業の中でも小規模な企業に言及しています。また、小規模企業の定義は、第2条第5項に定めてあります。
5 この法律において「小規模企業者」とは、おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については、5人)以下の事業者をいう。
商業サービス業ではパートさんなどを除いて5人以下、その他の事業では20人以下となっています。この定義に照らせば、私がご支援している企業の半分くらいは、小規模企業者ですね。
上述したように、小規模企業の視点から、中小企業基本法の改正も視野に入れて、中小企業政策を抜本的に見直すという、議論がなされています。
未来会議の答申を受けて、来年度にはちいさな企業未来補助金という新たな制度もスタートするようですので、「ちいさな企業」というキーワードから目が離せないです。