強みをつなぐ事業承継②

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たくさんの小さな会社が直面している事業承継問題について、強み経営の観点から記事を書いています。

経営者は生涯現役?

『小規模企業白書2015』によると、小さな会社の経営者が引退する年齢は70.5歳(2010年時点)だそうです。「死ぬまで現役」「社長業には定年はない」という社長様も多くいらっしゃいます。いつまでもお元気に活躍されることは、本人にとっても好ましいことですね。

しかし一方で、経営者の年齢と企業収益には、負の相関関係が見られます。つまり、経営者の年齢が上がるほど、利益が減る傾向にあります。白書のグラフを引用します。このグラフから一目瞭然、とても明確な傾向を見て取れます。「お元気なうちはいつまでも経営してださい」といえない面もあります。

経営者年齢別の経常利益の状況

経営者の年齢があがると利益が減るのはなぜ?

なぜ、このようなことが起きるのでしょうか? 経営力の源泉が、もし「経験」にあるとすれば、年齢を重ねるほどに経営経験は増えるでしょうから、上とは逆のグラフになるのではないでしょうか。ということは、経営力と経験は関係ない? この仮説は、容易には受け入れがたいですね。

別の仮説を考えてみましょう。年齢と共に体力や気力や記憶力が衰える訳ですから、経営力がこれらに依存しているという考え方です。体力が必要な職種ではある程度当てはまるかも知れませんが、あまり説得力はなさそうです。

今はIT活用の時代です。急速なIT技術の進歩に高齢経営者が対応できず、新たなビジネスチャンスへの挑戦や新たな経営手法の導入が遅れ、経営が非効率化している、という仮説はいかがでしょうか。あなたは、この考えに賛成ですか?

アートとクラフトとサイエンス

わたしはミンツバーグという経営学者が好きなのですが、彼は、経営(マネジメント)にはアートとクラフトとサイエンスの3つが必要だといっています。アートというのは直感のことです。クラフトは技=経験、サイエンスは分析です。IT活用はサイエンスにあたると思います。でも、経営に必要なものは、それだけではありません。直感も経験も必要です。

経営者の年齢が上がると収益力が落ちるという謎は、経営に必要なアートとクラフトとサイエンスの力が徐々に落ちてくるということなのでしょうか。経営者にそういう自覚はあるのでしょうか? わたしは26歳の時に起業し、今まで30年近く経営していますが、確かに昔に比べると「物事をなす」スピードが遅くなっているように感じます。もっとも、70歳以上の経営者でも4.4%は利益が増加傾向にあるそうですから、個人差も大きいのでしょう。

なぜ引退しないのか?

年齢を重ねてもアートとクラフトとサイエンスの力を維持できる経営者は、生涯現役でいいのでしょうが、そうではなく、利益をあげられにくくなっても、引退しないのはなぜなのでしょうか。白書には次のようなグラフが紹介されています。

経営者が事業承継を行うことを躊躇する個人的な要因

「厳しい経営環境下で事業を引き継ぐことに躊躇している」という回答が65.7%あり、「事業を引き継いだ後の、収入・生活面での不安」が57.5%と大きな割合を占めています。前者は後継者に目が向いており、後者は自分に目が向いています。内にも外にも問題があるということでしょう。引退したくても問題があるため、引退できないという状況です。

しかし、回答で一番多いのは「その他」です。その他がもっと回答が多いアンケートというのもどうかと思いますが、おそら「事業承継を考えていない」ということでしょう。

約半数が廃業候補

現経営者による後継者の確保状況

このグラフを見ると、事業承継の意思がない方(16.0%)と考えていない方(31.2%)を合わせると約半数の経営者が、事業承継をせず廃業となる可能性が高いです。また事業承継を考えているが、後継者候補のない方も12.9%あります。

今回は『小規模企業白書』のいくつかのグラフを参照しながら、小さな会社が事業承継に際して抱えている問題点について考えています。厳しい経営状況にある会社では、後継者(主に自分の子供)に会社を引き継がせることを親として躊躇している状況があり、引退後の生活不安のため最後まで経営を続けることを選んでいる経営者もあります。このため、経営者の高齢化が進み、企業の収益力も落ちている状況です。

こうした状況にどのように対応していけば良いのでしょうか。次回はそうしたことを考えてみたいと思います。

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