インディーズ作家とは
ざっくりといえば、プロの作家以外の著者のことです。本を書きたい方は多くいらっしゃいます。しかし、普通の方が、自分の本を商業出版することは、これまでほとんど不可能でした。才能に恵まれた一握りの方や非常に幸運な方以外、なかなか自分の本を出すことはできませんでした。少し金銭的に余裕のある方は、自費出版という形で自分の本を持つことができます。しかし、多額の費用をかけても、残る結果は「自分の本を出した」という自己満足だけというのが、多くの著者の実情ではないでしょうか。
このような状況を一変させたのが、Amazonが提供しているキンドルダイレクトパブリッシング(KDP)です。KDP を利用すれば、プロの作家でなくても、出版社を通さずに、だれでも自分の本を出版できるようになったのです。言葉は悪いですが、素人でも作家になれるわけです。そして、KDP などを利用して自分の本を出版している人をインディーズ作家といいます。
2012年にKDPが日本でも利用できるようになり、たくさんのインディーズ作家が誕生しています。わたしは2014年にWoodyというシステムから出版し、総合電子出版代理人であるエストリビューターとして、何冊かの本を出版しています。わたしもインディーズ作家のひとりです。
インディーズ作家の強み
アメリカにはインディーズ作家でありながら、ミリオンセラーを達成している著者が何人もいます。その中のひとりであるジョン・ロック氏は、著書『電子書籍を無名でも100万部売る方法』の中で、プロ作家は契約している出版社との関係もあり、電子書籍を安く売ることはできない。一方インディーズ作家は非常に安価で販売することができる。このため、無名の作家であっても、お試し買いしてもらうことができ、その内容がよければファンを獲得できる。こうして、インディーズ作家とプロの作家の立場が逆転しうるのだと。
どこの誰だかわからない著者が書いた作品を買ってもらうには相当の工夫が必要です。マーケティングが必要というわけです。しかし、資本力がないインディーズ作家が大手出版社と同様のマーケティングをできるはずがありません。この状況でインディーズ作家の強みとなるのが価格です。
まずはお試し買いしてもらえる価格で販売し、ファンをつくり、その後に出版する作品を継続的に買ってもらうことで収益をあげる。そのようなビジネスモデルが可能なのです。
個人はAmazonでPOD出版できません
PODとはオンデマンド印刷で出版された書籍のことです。1部からでも紙の書籍を出版できるというメリットがあります。電子書籍は、専用端末でなくても、スマートフォンやタブレット、PCなど、ほとんどの端末で読むことができます。しかし、電子書籍を買ったことがないという方は意外と多いです。これからもそのような読者は一定数は残っていくと思われます。電子書籍だけでは、そのような読者にリーチできないのです。
そこで、「本はやっぱり紙でなくては」という話が出てきます。しかし、残念ながら、アメリカと異なり日本では個人はAmazonでPOD出版できません。つまりインディーズ作家自身ではPOD出版できないのです。そこで、仲介業者にPOD出版をお願いすることになります。
POD出版のふたつのデメリット
仲介業者を利用すれば、インディーズ作家でもAmazonでPOD出版できます。つまり、『電子出版のプロデューサーになろう エストリビューターとして活躍する方法』のように、Kindle版とPOD版の両方を出版することが可能です。しかし、PODは紙の書籍であるが故に、ふたつのデメリットを抱えています。
ひとつは、「原価」というデメリットです。電子書籍の実態は電子データですから、データそのもののコストはほぼゼロ円です。しかしPODは紙に印刷しますから、紙代、トナー代、製本代という「原価」がかかります。しかも、オンデマンド印刷ですので、毎回同じ費用が発生します。たくさん売れたからといって、1部あたりの「原価」は変わりません。
このため、「原価」を下回る価格で販売することが基本的にはできません。ある仲介業者のサイトを見てみると、50ページのPOD本の「原価」は339円です。そしてAmazonでの販売価格は796円、印税は10%の80円だそうです。販売価格が796円というのは、仲介業者のマージンも入っているからでしょう。
もうひとつは、読者に届くのに時間がかかる、ということです。電子データならインターネット経由で即時に読者に届きますが、物理的な実体のある紙の本は、配送しなければなりません。通常であれば、二三日かかります。
インディーズ作家がPOD出版することについて
電子書籍の本質は、スマートフォン向けのデジタルコンテンツです。この観点から考えると、POD出版が内在している二つのデメリットは、インディーズ作家にとっては、自分たちの強みを全て失う結果につながるように思われます。
まず、価格訴求ができません。50ページで800円近くの価格であれば、プロ作家の文庫本に全く太刀打ちできません。紙の本で50ページといえば、文字数にして25,000文字程度でしょうか。スマートフォンなどで読む場合には、あまり文字数が多いと読者が最後まで読み切れません。ですから、25,000文字というのは、電子書籍には適した文字数です。
これを紙に印刷してしまうと、わずか50ページにしかなりません。小冊子レベルです。それで800円というのは、かなり割高な気がします。お試し買いできない価格です。そうなると、出版社が有名で信頼できるとか、著者自身が多くのファンを持っているとかでないと、買ってもらえないでしょう。有名書店からPOD出版するということは、商業出版に限りなく近づきます。「自分が書きたいことを好きなだけ書く」というインディーズ作家の楽しみも失われそうです。
こう考えると、自分の主張を広く知ってもらいたいという一般のインディーズ作家にとって、POD出版するメリットは、電子書籍を出版するメリットほど大きくはなさそうです。さて、あなたはどうお考えになりますか?